INCIDENT RESPONSE
福祉用具の事故・ヒヤリハット対応|初動、報告、再発防止

福祉用具の事故が起きたら、最優先は利用者の生命・身体の安全です。救急要請等、危険区域からの退避、用具の使用停止を行い、その後に家族、管理者、介護支援専門員、主治医等へ連絡します。事業所は市町村等への報告、必要な措置、事故状況と処置の記録を行います。製品事故が疑われる場合は、現物を勝手に修理・廃棄せず、製造・輸入事業者やレンタル卸とも連携します。
意識障害、呼吸困難、強い痛み、出血、頭部打撲などが疑われる場合は、原因調査より救命・受診を優先してください。現場担当者だけで医療判断をせず、119番、主治医、看護職等へつなぎます。
事故発生直後の優先順位
- 人の安全を確保する救命・救急要請、応急対応、二次被害の防止を行います。転倒者を安易に動かさず、専門職の指示を受けます。
- 用具の使用を止める電源、ブレーキ、可動部などを安全に停止し、他者が再使用しないよう表示・隔離します。
- 必要な連絡を行う家族、事業所管理者、介護支援専門員、医療職、レンタル卸・メーカー等へ、確認できた事実だけを伝えます。
- 現場と製品を保全する生命に危険がない範囲で、設置状況、部品位置、設定、周辺環境を写真と図で残します。
- 行政報告の要否を確認する指定権者・保険者の事故報告要領、期限、様式に従います。重大製品事故の可能性はメーカー等と連携します。
記録は「事実・対応・判断」を分ける
事故直後の記憶は時間とともに曖昧になります。見たこと、聞いたこと、推測を混ぜず、時刻順に残します。利用者・家族への責任追及や、製品不良と断定する表現は調査前には避けます。
| 区分 | 記録する内容 | 避ける表現 |
|---|---|---|
| 事実 | 発見時刻、姿勢、用具の位置・設定、外傷、発見者 | 「不注意で転倒した」など原因を断定 |
| 対応 | 救急要請、受診、使用停止、代替品、連絡先と時刻 | 「問題なし」だけで経過を省略 |
| 情報源 | 本人、家族、職員など誰の説明か | 伝聞を現認事実として記載 |
| 判断 | 誰が何を根拠に決めたか | 担当者不明の「様子を見る」 |
10:05 長女から「ベッド横で座り込んでいる」と連絡。本人は会話可能。右股関節部の痛みを訴えたため移動させず、長女が119番。10:12 管理者・担当ケアマネへ連絡。ベッドの高さは床面から約40cm、右側サイドレール装着、電源接続状態。再使用防止の表示を行い、同型の代替品手配を開始。製品原因は現時点で未確認。
行政・関係者への報告を漏らさない
指定居宅サービスの基準では、サービス提供により事故が発生した場合、市町村、家族、介護支援事業者等への連絡、必要な措置、事故状況と処置の記録、事業者の責任による損害への速やかな賠償が定められています。報告対象、期限、報告先、様式は自治体ごとの事故報告要領で確認します。
- 利用者・家族への説明と連絡時刻
- 介護支援専門員、主治医、訪問看護等への共有
- 保険者・指定権者の報告要領と提出期限
- レンタル卸、メーカー、輸入事業者への連絡
- 重大製品事故に該当する可能性の確認
- 個人情報を必要以上に共有しない送付方法
- 第一報後の追加報告・最終報告の担当者
製品を捨てず、現場を変えすぎない
事故原因の確認には、用具本体だけでなく、組み合わせた付属品、設置方向、床の傾斜、マットレス厚、家具との隙間、本人の衣服や動線なども関係します。救命や二次被害防止に必要な変更は行いつつ、変更前後を記録します。シリアル番号、商品コード、納品日、点検日、修理履歴、取扱説明書、同型品の利用状況をそろえます。
原因分析は4方向から行う
「本人の使い方」だけに原因を寄せると再発防止が弱くなります。少なくとも次の4方向で事実を確認します。
- 利用者:心身状態、認知・視力、痛み、服薬、操作理解、状態変化
- 用具:適合、設定、摩耗、破損、付属品の組合せ、取扱説明との一致
- 環境:段差、傾斜、照明、床、隙間、家具、充電場所、屋外経路
- 運用:選定、試用、説明、点検、申し送り、緊急連絡、メーカー情報の反映
NITEは、介護ベッドではサイドレールやベッド用グリップ周辺の隙間への挟み込み、電動車いすでは屋外の転落・転倒等に注意を促しています。製品ごとの取扱説明書と最新のリコール・事故情報を確認します。
再発防止策を「誰が・いつまでに」へ落とす
| 弱い対策 | 実行できる対策 |
|---|---|
| 今後注意する | 本日中に使用停止。翌営業日までに専門相談員が適合を再評価し、代替機を提案 |
| 家族へ説明する | 交換時に本人・長女へ実演し、ブレーキ操作を本人が再現できるか確認 |
| 定期点検する | 同型品利用者を抽出し、7日以内にサイドレールの組合せと隙間を確認 |
| 情報共有する | 最終報告を管理者が確認し、朝礼で変更手順と対象商品を共有 |
ヒヤリハットを事故前の改善につなげる
けががなかった事象も、偶然で済ませません。「ブレーキをかけ忘れた」ではなく、なぜ見落としたか、表示・形状・説明・環境・確認手順に改善余地がないかを検討します。発生頻度と被害の大きさで優先順位を付け、同型品や似た利用環境へ横展開します。
- 用具が動いた、傾いた、外れかけた
- 身体や衣服が隙間に入りかけた
- 操作を逆に覚えていた
- 付属品の組合せが取扱説明と異なっていた
- 使用場所や介護者が計画時から変わっていた
- 点検期限やメーカー注意情報を追えていなかった
納品・モニタリング時の安全チェック
- 本人の状態と用具の設定が現在も合っている
- 本人・介護者が重要操作を実演できる
- サイドレール、グリップ、マットレス等の組合せが適正
- 摩耗、変形、がたつき、異音、充電不良がない
- 挟み込み、転落、転倒、ひも類の巻き込みが起きる隙間がない
- 故障時の連絡先と使用中止の判断を共有している
- 状態・環境変化時は使用を続けず連絡することを伝えている
第一報で伝える内容
関係先へ急いで連絡するときも、未確認の原因や責任を断定しません。「誰に、どこまで、何を伝えたか」をそろえると、二重連絡と伝達漏れを減らせます。
利用者名・発生場所/発生または発見日時/現在の意識・痛み・外傷と受診状況/使用していた用具と設定/現時点で確認できた事実/使用停止と二次被害防止の状況/これから必要な対応/次の報告予定時刻。個人情報は、各連絡先が対応に必要とする範囲に限定します。
第一報後に新しい事実が分かったら、以前の記録を書き換えて消すのではなく、確認日時と情報源を付けて追記します。誤情報があった場合も、訂正前の内容、訂正理由、訂正者が追える形にします。
管理者レビューで確認すること
- 救命と二次被害防止が完了している
- 家族、介護支援専門員、行政、メーカー等への連絡要否を判断した
- 事故品と現場写真、設定、付属品、履歴を保全した
- 原因を利用者・職員・製品の一つに決めつけていない
- 再発防止策に責任者、期限、確認方法がある
- 同型品・類似利用者への横展開が必要か判断した
- 利用者・家族へ経過と今後の対応を説明する担当者が決まっている
- 最終報告後に手順書、教育、点検表を更新するか決めた
公開一次資料
厚生労働省「福祉用具・住宅改修(事故情報等)」、製品評価技術基盤機構(NITE)「見守って防ごう!高齢者の事故」を確認しました(2026年9月14日閲覧)。事故報告の対象・期限・様式は指定権者と保険者の最新要領を確認してください。
